波
大きな波が近付いた
それは最初遠くの方にあってなにかうねりのような水の高まりとして見つけたのだけど、それが波であるとはじめから感じていた。沖から海岸線に向かって周りの魚やら海藻やらを巻き込んで波は進んでいくそれを僕はずっと目で追っていた。
いつかはここまで届くと思っていた。波に気付いてるのはこの海岸で僕だけだ。そこにはなんというか、縁とか勘とか、そういうものをぎゅうぎゅうに詰め込んだエネルギーのようなものに基づいて僕だけに近付いていると思ったからだ。
僕は待った。
けれども、波は今は消えてしまった。あれだけ大きくて勢い良く何かをこっちの方に寄せてきた波はもう消えてしまった。本当に、"消えてしまった"のだ。海にはもはやさっきまでの日差しを反射したきらめきは見当たらないし、ピクリとも動かずにむなしさを抱えて死んだように見える。
それでも僕は待とうと思う。次のうねりやらエネルギーやらきらめきやらを、僕はもう少し待とうと思う。